以下には、SFセミナー2003に参加した感想が書いてありますが、基本的にはいつも通りの日記であることをご了承下さい。

5月3日(土)

 朝、新幹線で東京駅へ。駅に着いてから、自分が一人でセミナーに行ったことがないことに、はたと気付いた。いつも集団にくっついていれば自然に会場に着いていたので、水道橋に行くのに何線に乗ればいいのかわからない。ここで駅員に聞くまで15分ほど彷徨。
 今回の本会会場が全逓会館じゃないのは確認していた。前に行ったことがあるニコライ堂の近くの方だ。水道橋の改札で、ニコライ堂はどこですか?と駅員に聞いてみると「え、それは水道橋じゃないぞ。御茶ノ水だ」…今、各駅に乗り換えしてきたところなのに(しくしく)。仕方なく戻り、駅を出てニコライ堂目指して進むと、前方に林さん発見。勝った!と思いましたね>次からは場所を確認しておくように。

 会場の入りは例年に比べると少なげ。一般受けする大物ゲストがいないせいだろう、と言われてましたが。のむのむさんがびしっとスーツ着て出てきて、はじめの挨拶。安心感があって格好いいけど、どうも結婚式のようだ。

 第一企画は「SFラジオドラマの世界」。私はラジオドラマはおろか、そもそもラジオを自由意志で聞くこともほとんどないので(一時期「朝のバロック」は聞いてたけど)今いちピンとこなかったが、ラジオドラマの長所は「映像作品よりも自由な想像をかきたてる」「宇宙へ行こうと世界一周しようとコストが安い」、短所は「カットバックに弱いので(高まりが削がれる)、ミステリはやりにくい」。
 面白かったのはNHKの資料の話で、誰がどのドラマの演出をしていたかという紙の記録は95%ぐらい残っているが、音源自体はせいぜい20年以内ぐらいのものしか残っておらず、それも全部あるかどうかはわからないそうだ。昔の人には、残しておくという意識はなかったし(「放送は『送りっ放し』の意」という説があったとか)テープも高かったし、よっぽど良いものでなければ、そのまま再利用されていたらしい。

 これは後の企画でも似たような話があったが、ラジオドラマにするときは、原作とはあまり重ならないようにしているとのこと。星新一が「自分の作品は紙媒体で勝負しているのだから、下手にいじられるのはいやだ。しかしTV化されるよりはまし」と言っていたというのが少し面白かった。

 ラジオドラマのCD化については、権利関係がネックになっていて、使っている曲がオリジナル曲でないとなかなかCD化できない。声に結構大物が出ていたりするので(ドラえもんとか、仮面ライダーとか)そちら関係でも難しいらしい。あと、昔は「雨傘番組」(何となく懐かしい響き)でSF関係の音楽を流したり、勝手なトークをやっていたんだとか。
 ラジオドラマは「想像力の訓練として重要」、と繰り返していたのはやや説教くさい感じがしたが、資料や権利関係の話は面白かった。

 第二企画は「飛浩隆インタビュー」。司会のリッキーさん(仮名)は幕が上がるといきなり「飛浩隆さんです」「まず『グラン・ヴァカンス』なんですけど」。セミナーに来ている人の全てが10年前から飛浩隆を知ってるわけでも『グラン・ヴァカンス』を読んでるわけでもないのだから、ある程度の紹介はあった方がやっぱり親切なのでは。

 飛さんは自分から色々しゃべってくれる人で、小説の書き方の話は、作品から想像していた通りの人だと思った。「イメージに向かってアイデアを進める」「視覚的イメージを喚起するためには、そのイメージを書くのではなく、別のところに訴えなければいけない」「自分の書いたものを読み直し、それを元に考えて先を書く」「おお、こんな複線を書いていたのか!ということがある。どっかに複線落ちてないかな、と探したりもする」「言語化すると書けなくなる」「おり心地について表現している」「色々なところで『沈黙を破って』と言われるが、沈黙なんてしてない、私は書いてます。たまにパソコンの電源入れて2、3行書いては、電源を消し…」(笑)。

 小さい頃は、脳内映画を上映し、手を振り回して登下校していたことで、近所では有名な子供だったとか。影響を与えたものとしては「仮面の忍者赤影」など。これに出てくる忍術で、人間の顔というものはコピー・ペーストできるものだと思ったそうだ。あと、溶ける系に弱いらしい。

 リッキーさんの質問「デビュー前にも創作してたんでしょうか?」にも、ちゃんと突っ込んでおられた。「まあ創作してないとデビューできないわけで」。リッキーさん「指が勝手に動くとかそういうことはないんでしょうか?」「そんな人いるんですか?」「2年前に私、インタビューしました(池上さん)」(笑)。

 あとは「仕事でゴミ焼却場の掃除がまわってきて早起きするようになり、朝起きられることがわかってからは、朝起きて小説を書いている」!(会場から拍手)とか、野尻さんの『太陽の簒奪者』の書評に対して「吸い物を、芋煮だのけんちん汁じゃないだのと言うヤツがいるか!と怒りを覚えた」とか。次回作は昭和50年代の高校生が主役で(取材せずに済むので早く書ける、と)、『グラン・ヴァカンス』のシリーズものではない。「プリティ・ウーマン」「プリティ・ブライド」「プリティ・プリンセス」をFOXがプリティ3部作と言っている程度にはシリーズものらしい(笑)。

 企画合間の休憩時間には放出本を見たり。みらい子さんはじめ女性スタッフが和装なのは、日本の女性SFファンはキモノを着ているという誤解を世界に与えるためなのだそうだ。
 廊下をうろついていると、色々な方から「おめでとうございます」と言われて、気分は一人正月。「大変驚いた」という方が多かったのは嬉しかった。そして何より感動したのは、通りがかりの(塩)さんに「おめでとうございます」と一言言っていただいたこと。ああ、結婚を決めてよかった!と心から思った初めての瞬間であった。

 そういえば、山岸真さんから、私の結婚相手予想に関するナゾの言葉をいただいたが、その真相は不明なままである。それと、破滅SFファン度調査で最多54作品だったのは私です、という自己申告をいただいたので、ここに伏して明記させていただきます。山岸さんを倒したい人は、今から55作品になるまで読んでください。

 次が一番面白かったレム企画。どうやらもうすぐ日本で公開されるらしい、ソダーバーグ版『ソラリス』予告編の上映から企画開始。残念ながらジョージ・クルーニーの尻にはお目にかかれなかったが、それはともかくソラリス学が生まれたほどのソラリスブームを巻き起こしたタルコフスキー版『ソラリス』と違い、ソダーバーグ版『ソラリス』は2週間くらいでマンハッタンの映画館から姿を消したらしい(『シカゴ』に駆逐された)。NYタイムズは「スター・ウォーズの後に思索的なものは無意味である」という論評を出したそうだが、「しかし、これはブレードランナーを意識した作品である」「我々は『ソラリス』は長くないといけないと思っているが、それを90分で作れただけでも斬新である」「ソラリスをポルノにするとは素晴らしい!」と巽さんは熱弁をふるっておられた。

 ポーランド語翻訳者の芝田さんによると、ポーランドの新聞でレムが試写を見た感想を述べていたそうだ。レムはタルコフスキー版も気に入らず、モスクワに行って文句つけて喧嘩別れしたが、今回は「製作には一切口を出さない」という条件で映画化。でも「ラブストーリーだけ取り出している。私は違う香りの花束がよい」とあまり気に入らない様子だったとか(笑)。ポーランドでは、レムは「小中学校の課題図書の作家」と思われていて、今でも『宇宙飛行士ピルクス物語』や『泰平ヨン』が課題図書に指定されている(挿絵には同じイラストレーターがずっとついている)。アシモフみたい感じ?80年代から小説は書いておらず、専ら評論に力を注いでいるそうだが、今年の新刊として出ていたのが、スペルを学ばせるために甥に後述筆記させた作品。スタニスワフおじさんがミハイル少年のために、綴りが難しい単語を織り交ぜたお話を…「水たまりの中に死体が転がっている」から始まるらしい(笑)。

 巽さんによる「レムaffair」の話が面白かった。レムがアメリカでブームになった時、アメリカSF作家協会から名誉会員にとの話があったが、レムがアメリカSFをけなしていたことが発覚し、名誉会員ではなく普通の会員に(会費を払う)ということになった。このとき、ディックによるレム批判があった。FBI宛に「アメリカSFを侵略しているので厳重に取り締まってほしい」という手紙を書いたらしい…さすがディック。そこへファーマーがディックと一緒になってレム批判をはじめると、ディックは「いや俺はファーマーとは違う」と日和りだした。結局、会長のパーネルが「英訳が出ているので(名誉会員ではなく)一般会員にどうぞと言ったが、拒否された」と公式見解を出したのだとか。
 これに対してスターリング(ちなみに彼の好きな作家はヴォクト・ベイリー・レムだそうだ)が書いた文章が面白い。「アラバマの田舎(ポーランド)の少年がトルストイ(ウェルズ)やドストエフスキー(ステープルドン!)を読んで大きくなったら、ソ連作家協会から共産主義小説のクズを送ってこられ、それを批判したらソ連作家協会に入る資格を剥奪された」(笑)。

 ポーランドでは、123年間国がない時代があったこともあり、大河ドラマのような歴史ものが人気、という話が興味深かった。やはり詩の方が小説より格が上とされているそうだ。レムは、親が医者だったので医学部に行ったが、卒業せずふらふらしていて、たまたまSFが好きなので書きたい、と言ったら、出版社から契約書が送られてきて「ここにタイトルを書き込め」。それで適当に「金星応答なし」と書き込んだら、何とか書けてしまった(…後で『金星応答なし』読み直そう)。レムはアメリカ人には相容れぬもの、という話も面白かった。レムにとってエイリアンは「どんなに論理を詰めても、わからないものはわからないので仕方ない」という存在だが、アメリカ人にとってエイリアンは「対決すべき存在」「勝つか負けるか」だから。

 次の第4企画は出渕裕インタビュー。私はセミナーのプログラムに載っていた出渕裕関係アニメを一つも見たことがないし、名前を聞いたことがあるぐらいだったが、お顔にはなぜか見覚えが。『ラーゼフォン』も見ていないが、『たんぽぽ娘』で『美亜に贈る真珠』な話らしいと聞いて、俄然興味がわいてきた。タイムトラベルじゃなくって観測問題なんだってよ。んで、出てくる猫がシュレーディンガーの猫なんだって(嘘)。

 それはともかく、出渕さんはファンダムの人で、子供の頃は怪獣博士の類だったそうだ(当時はおたくという言葉がなかった)。仲間を見つけるにはマガジンのてれぽーと欄くらいしかなく、高校生の時にそこで見つけたサークルに入った。と、ここで観客席の小谷真理さんが大笑い。仲間なのか(笑)。

 「アニメファンはキャラやメカなど瑣末なことばかりに拘り、断定口調が多い」「萌え萌えな人しか見ないのは好ましくないので、監督作品は『2クール地上派TVシリーズ』を強力に希望した」「中学生ぐらいの子向けに考えている。恩返しをしたい」「70年代のSFブームが悪い。SFとして作るものは、ダメなSFアニメになっている。ギミックの面白さだけが抽出されすぎた」「フェチは大事だけど、フェチが中心なのは良くない。世界観が大事」 なるほど。
 前の企画と同じように「媒体が違うのだから、原作ファンから原作と違うと言われるのは無視してもよい。アニメと漫画は方法論が全然違う」という話も。

 企画が終わると、移動開始。あぼさんがアンパンマンぬいぐるみを持って走ってる姿を傍目で見て、ちょっとびっくり(笑)。というか、トキオ君歩いてるし。
 今年は集まった7人のうち、3人が女性という異常に男女比の正しい集団に。これもたなかさんが参加されたため(ふふふ)。いいのだ、3人とも現役じゃなくても。で、ファミレスっぽい店で晩御飯。後藤さんと細井氏が業界話をしていて恐かった。そんなに事故で死人が出るのか>鉄鋼業界。
 その後は、男女に分かれて(!)タクシー拾ってふたき旅館へ。赤門前で降りてから、勘の告げるままに進んで旅館に辿りつき、先輩と後輩から尊敬の眼差しを浴びた(俗に馬鹿にされたとも言う)。

 今回、私としおしおには物凄い野望があった。明日のイベントに備えて、セミナーで風呂に入るのだ!寝部屋を定めた時点でオープニングまであと10分。セミナー9回目にして初の風呂(というかコンベンション会場で風呂に入るのは初めてだ)を目指して、しおしおとダッシュ。ふたき旅館の風呂は地下にあり、確かにあまり上等ではなかった。ドアを開けて飛び込んだら、更衣室にヒラマドさんがいて、おめでとうございますと言われる。で、萌え話(嘘)。それはともかく、バスクリン風呂にケロヨン洗面器はなかなかでございました。シャワー壊れてたらしいし。

 風呂から上がって大広間に突入。企画紹介によると、SFJapanの部屋では大野さんと(塩)さんのプロレス対決が行われるらしい。と、(塩)さん「気弱なので負けます」。続いて「昼間はあまり書けてないように言われてましたが、飛さんの新作は結構進んでます、いい感じです」と述べたマガジン編集長、「これから出る新刊は…」と言いかけて司会に無視されると「また後で…」と呟いて去っていかれました。さすが(笑)。

 第一企画はジェンダーSF研の部屋へ。『妻の帝国』で民意がわかる人とわからない人がジェンダーの関係にあてはまるというのは、少し面白かった。『傀儡后』が「衣装で全て変わってしまうという話」だという見方も。あんまりそんな風に考えたことはなかったな。「おたく」という男でも女でもないジェンダーがある、という話は、ちょっとまとまっていない気がしたが。とりあえず『両性具有迷宮』と『宇宙生命図鑑』は読まねばならぬ。
 元の本を読んでいないとついていけないのは仕方がないことだが、もう少し企画の流れがスムーズだともっと面白いのにな、とは思った。あと、現場で「えー」と非難を浴びましたが、非常に残念ながら私の頭にはやおい回路が装備されていないようで、やおいはよくわかりません。いえ別になまものへの恐怖からそうなったわけではなく、「女性会員向けだから」とJUNEを渡された18の時からそうなのでございます。

 第二企画はSF十段の部屋へ。どんな企画がよくわかっていなかったのだが、要は個人のウケ能力を競うということか?去年参加していない身としては、勝敗基準がややナゾだった。U-kiさんの『イリーガル・エイリアン』紹介は語り口が面白かった。便利な人は、『パラダイス・ロスト』が星雲賞にノミネートされなかった怒りを放出して一戦突破。
 東さんの最初の紹介本は、正直どんな話かはっきりとはわからなかったが、声に聞きほれているうちに終わってしまった。まさにセイレーンのようだ。その後の「破滅後の未来で、世界の半分を所有しているニューヨークの30代美男子大金持ちが出てくる刑事物」というのが面白そうだった。最後の日下十段との戦いのお題は『バイオ・ハザード』。「最終的には科学技術より体力が大事」という結論で、東さんが新SF十段を勝ち取られたのでありました。
 時間が余ったので、その後「いかに『バイオ・ハザード』が極悪非道ですごいか」という話で盛り上がったような。あと、SF婚がどうとか細井さんが言ってましたが、うちはダブり本が100冊にも満たないので、SF婚と言うほどのものではないかと。

 それが終わると、大広間でゴロゴロ。林さんに、合宿企画『2003年版SFアニメ総解説〜アトムの子ら〜』の副題はどうよ!みんなオールBで原子力研究所が事故ったのかよ!と愚痴っていたら、心が狭いと言われた。そうか?そうか〜?あと、シーフォートは、息子と父の関係を求める女が楽しむからいいんだ!という話とか。確かにいくら何でも父求め過ぎという気はしますが>もう追ってない奴が言うな。

 途中でちらっとプロレス部屋(嘘)を覗いてみると、大野さんがSFJapanの原稿の取り方を語っていた。横の(塩)さんは「既にたくさん作品がある作家だと、一応全部読んでからじゃないと原稿の依頼がしにくいけど、新しい作家だと1作か2作で済むから依頼しやすい」と。なるほど。(塩)さんは、西村寿行を読む中学生だったらしい(それも何だか)。

 大広間では、慶応の若者をみんなでおおおお、と遠巻きにしたり、山岸さんの愛猫14歳の写真を見せていただいたりも。カメラ目線でしっかりポーズをとる凄い猫だった。あと、コニー・ウィリスとオクテイヴィア・バトラーはもともと体がでかい、ウィリスの娘がデビューした、というお話を伺ったり。SFファンは一度離れてまた戻ってきたら本物で、それからは二度と抜けられないらしい>どうですか、森さん。

 明日があるので、3時前には大広間を後に。5時間睡眠のおかげで、エンディングでも割と頭すっきり。セミナーはスタッフ多いよな。
 終了後、朝食を取りにみんなでぞろぞろ入った近くの喫茶店は当然のことながら混んでいて、なかなか注文の品が来ない。モーニングセットが来た途端、私としおしおは、ゆで卵片手に次のイベントに向けて走り出したのであった。


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